2008年9月12日

イタリア放浪時代<ペルージア10>

Filed under: 旅行日誌,社長ブログ — boss @ 5:00 PM

 まだまだイタリア語で仕事ができるレベルではないが、そろそろペルージアを切り上げねばならないと考え始めた夏の終わりに、かわいいチンクエチェント(フィアット500)に乗った堂々たる体躯の男たちが現れた。もうイタリアは長いらしく、いかにも溶け込んでいる感じがする。二人ともミラノの道場で武道を教え、バカンスにやってきたと言う。日本拳法を教える郷田さんと柔道の門脇さんである。ミラノの話が知りたくて、いろいろと話を聞いた。現代建築はローマでなくてミラノだ。どうせならミラノに来い。郷田さんはミラノ城の近くで、何人かの日本人と住んでいるそうだ。そこでよかったら尋ねて来いと言ってくれ立ち去った。願っても無いことである。二人はまるで僕のミラノ行きの道をつけに来てくれたような存在である。

 すぐにミラノ行きの準備を進めた。友達の輪を広げすぎたため別れが大変だ。学校も終盤で受講者の数も減ってきた。その日、授業の終わりに手を上げて、「マリア先生、私は今日で終わりです。明日ミラノに発って建築の勉強と仕事に行きます。ありがとうございました。」とたどたどしいイタリア語で言うと、「ビエニクイ(こちらにいらっしゃい)」と握手を求められ、「この講義は夏休みに開かれるから黙って去ってゆく人が多いけど、お別れを言ってくれる、あなたは素敵だわ。がんばるのよ!」と首に手を廻し、ほほにキスをしてくれた。教室中に拍手が起こった。先生の赤いハイカラーのシャツからバラの香りがしたことを生涯忘れることが無いだろう。

 突然だったのでウバルトとの別れは電話だけになってしまったが、ペルージアにはまだまだ思い残すことが一杯でなかなか整理がつかない。何よりもマリコとクロちゃんとの別れである。互いにその話には触れないようにしていたが、彼女達にとっては僕は心から頼りであったに違いない。兄貴以上の関係にならぬように日本の許婚の存在を明確にしてあったが、それでも乙女心である。身近で、程よい年上で何事も思いのまま自由に生きる男の存在はかなり眩しかったに違いない。別れの晩餐会の後、明日は見送らないからと言って泣きじゃくっていた。胸の奥の甘酸っぱいものを振り切るのが辛かった。もう一人、別れ難い人がいた。マリアテレジア小母さんである。鍵を返す時、あなたは楽しかったわ。またペルージアに来たら尋ねてね。きっと来るのよ!と言って僕の肩をしっかり抱きしめた。

2008年9月4日

イタリア放浪時代<ペルージア9>

Filed under: 旅行日誌,社長ブログ — boss @ 6:20 PM

 ちょうどその頃、ミューヘンオリンピックで日本の水泳陣は元気で田口選手や青木選手が世界新記録で金メタルを取ってイタリアでも話題になっていた。そんなある日、「水泳はできるか?明日、湖に泳ぎに行こう!」とウバルトに誘われた。マリコたちは水着が無いので一人で行くことになった。迎えに来た車の後部座席に、それは涼やかな顔立ちの男女が乗っていた。いろいろと紹介されたが、そのイタリア語が難しかったのと彼女の澄んだ黒い瞳が気になってちょっと落ち着かなくなった。1時間程山道を登り丘を越えたところに大きく美しい湖が有った。湖の一角に玉砂利の浜があり、そこが遊泳所になっていた。人は少ないが、思い思いの姿で寝そべっている。僕たちも片隅に荷物とバスタオルを並べ、簡易更衣室に向かった。

 つややかな琥珀色の肌を黒いビキニで包んだ大き過ぎない胸と腰、サングラスを片手に濃いブラウンの長い髪をなびかせ、モデルのような歩き方で真っ白な歯を見せながらこちらに向かって来る。彼女の周りに突然オーラが輝いた。ついに僕はここでヴィーナスを見た! もちろん彼のほうもフランク・ネロを若くたような渋い男で、二人は演劇では将来有望なチュニジュア人の学生だと言う。ウバルトはこのような学生の支援もしているらしい。

 湖の水は冷たいが、気持ちが良い。山岳都市だからなのか、学校で水泳の授業が無いからなのか、この浜にいるイタリア人は水泳があまり得意でないらしい。僕程度の泳ぎでも賞賛の的のようだ。こんなことなら水中眼鏡とモリを持ってきて魚を突いて見せたら一度でこの浜のスターになったろう。ウバルトは少しぎこちないが何とか泳げる。沖で北沢君ならどんな泳ぎをするだろうか?と聞くので、古式泳法の抜き手を見せて、これが武士が川を渡る時、衣服を濡らさぬ為に頭に載せる泳法だと教えると、それは凄いと頭にタオルを載せて必死で練習していた。

 アッシジのことはこのシリーズの前に書いたが、時間を見つけて近くの山岳都市も歩いた。コルトーナやグッピオはペルージアの北の街だ。特にグッピオの楽焼に手書きの草花を書いた器は有名で陶器街特有の活気としゃれた街並は忘れがたい。しかし、このような楽しいことばかりで過ごすわけには行かない。トラベラーズチェックがどんどん減ってゆく。ローマかミラノのような都会に出て働いて補填しなければならない。僕にとってのローマの夜の印象はあまりにも強烈で気分的にはミラノに傾き始めていた。

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