イタリア放浪時代<再びミラノ 5>
そんな驚きのギャンブルで思わぬお年玉を手にして新年を迎えた。そしてすぐに、約束どうりペルージアからゴローさんがやって来た。気が置けない話が出来る親友が来る事は本当に嬉しく、しかし1週間ほどしかミラノに滞在できないらしい。アメリカの西海岸で2~3週間程の用事を済ませて戻って来る、と言っている。もちろんヤスコ嬢も呼んで歓迎パーティーを開いたわけだが、男としてのライバル的な気持ちも多少あるゴローさんにはさすがに彼女と一緒に南イタリアに行く話はしずらかったが、彼女もそのあたりはうまくはぐらかし、さりげなく親しさを見せてくれて嬉しかった。僕にとって一級建築士の資格が日本に帰ってからいかに大事か、3月には仕事をする事になった話を自分の事のように喜んでくれ、また、あれからのペルージアでの話など尽きる事は無かった。あっという間に1週間が過ぎ、荷物を残したまま身軽な感じでミラノを発っていった。
さて、今度は僕が今泉さんに話をしなければならないと思い、今泉さんの部屋を訪ねた。つい先日のNさん宅での醜態が頭を過ぎって緊張したが、「大人として、責任を持って南イタリアを案内します。」 と切り出すと、お兄さんは 「お前達はもう充分に大人だろう。僕の了解なんか関係ない。自分の行動は自分で責任を取るだけだ。」 とにこっと笑った。改めてそうゆう事が大人なのだとお兄さんの言葉に感動した。二人で街に出て旅の計画を練りながら、「素敵なお兄さんだね!」と言うと、「ちょっとカッコウをつけたみたいね!」 と笑っていた。
出発の前日、ツヨシに彼女と南イタリアに行くと話したら目を丸くして驚いた。親しそうにしていたのは知っていたはずだが、一緒に旅行に行くほどとは思わなかったようだ。帰国してからのNさんとの失敗の話はしてある。二人がどのようになるか分からないが、恋愛に関してはいつもお馬鹿なツヨシに大人の恋愛を見せることが出来るなどと偉そうに思った時、いやいや僕こそたぶん大人と自覚して初めての恋愛が始まるのだ!と強く感じ、厳粛な気持ちで受け止めた。
翌日は朝早くミラノを発った。急行列車は並んで座る席なので少しホッとした。ちょっとはにかみながら僕の腕を取り肩を寄せて過ぎ行く景色を眺め、これから始まるすべてに期待と不安をかみ締めているようだ。ボローニア、フィレンツエと南に下ると日も差し始めた。何日ぶりの太陽だろう。しばらく走ると列車なのに頼むと座席まで食事を運んでくれるサービスがあった。昼食のパスタに1/2ボトルの赤ワインを注文して、徐々に緊張を解いた。
ローマのテルミナ(終着駅)に着いたのはもう昼下がりだった。数ヶ月前、逃げるようにこの駅を発ったのを昨日の事のように思い出す。まずはホテルを探さねばならない。案内所でツインでいいねと断わってホテルを決め、そのままフォロロマーノに向かった。広大な廃墟の中に紛れ込むと歴史の中に溶け込んだようで、互いに見つめ合い唇を重ねると、じんわりと幸せな気分に包まれた。僕はミケランジェロにだけは敬意を表したくてバチカンに向かった。サンピエトロ寺院の広場の列柱の中にたたずみ、厳粛な気持ちで手を取り合ってクーポラを見あげると日もかげり始めた。市内に戻り街角の小さなレストランを探し、旅の始まりを祝した。二人だけの晩餐はイブの夜から2度目である。もう言葉は要らない。ただそこに居てくれるだけで嬉しかった。しかし、その日何を食べて飲んだのかの記憶はない。
二人の心は充分に許しあっているはずだったが、僕はなぜかホテルで焦って求めたりしないと決めていた。そんな訳で、ホテルではちょっと気まずく、先にシャワーを浴びてベットにもぐりこんだ。彼女のシャワーとベットに入る音をなぞりながら胸が高鳴った。しかし、いくら時が流れても眠れそうに無い。そっと彼女を伺うとまだ眠ってしまった様子はない。たまらず 「起きている」 と声を掛けると、「クク・・」 と笑う声が聞こえた。「そっちに移ってもいい?」 と聞くと背中を向けたまま向こうにずれた。作られたスペースに滑り込みフーと息をついて丸めた背中にそっと触れると、彼女はくるっと振り向いてすっぽっと僕の腕の中に入り込んだ。